晴れた夜、街明かりの少ない場所で空を見上げると、たくさんの星たちがきらめいています。青白く鋭く輝く星、オレンジ色に優しく灯る星。私たちは夜空の星を見て、「あんなふうに太陽のように輝く星が、宇宙にはたくさんあるんだな」と想像します。
しかし、実はその夜空に、私たちの目には決して見えない「もうひとつの太陽たち」が、数え切れないほど隠れていることをご存じでしょうか。
それらは宇宙で最も数が多く、そして信じられないほど長生きする星です。今回は、夜空の暗闇に隠された小さな主役、「赤色矮星」の不思議な仕組みをのぞいてみましょう。

赤色矮星とは?|宇宙で最も多い恒星
私たちが夜空で見ている星の多くは、自分自身で光を放つ「恒星」と呼ばれる星です。
恒星:太陽のように、自ら光と熱を放って宇宙の中で輝いている星のこと。

私たちの太陽も恒星のひとつですが、宇宙には太陽よりもはるかに小さく、ひっそりと輝く恒星が存在します。それが「赤色矮星」です。
赤色矮星:太陽よりずっと小さく、赤く穏やかに輝く、宇宙で最も数の多い恒星のこと。
この星の大きさは、太陽の10分の1ほどしかありません。重さもとても軽いため、中心で起きるエネルギーの生み出し方が非常に穏やかです。そのため、表面の温度は太陽の半分くらいしかなく、放つ光も弱いため、地球からは望遠鏡を使わないとひとつも見ることができません。
それなのに、実は天の川銀河にある星の約4分の3は、この赤色矮星だと言われています。夜空に見える華やかな星々の裏で、宇宙の主役は圧倒的にこの「見えない小さな太陽たち」なのです。
赤色矮星はなぜ長寿なのか
太陽のような大人の星は、中心にある「水素」という燃料を燃やすことで輝いています。燃料を使い果たすと、星は寿命を迎えます。太陽の寿命は約100億年と考えられていますが、赤色矮星の寿命はそれを遥かに超えています。
その寿命は、なんと「数兆年」に及ぶと言われています。現在の宇宙が誕生してからまだ約138億年しか経っていませんので、宇宙が生まれてから今日までに誕生した赤色矮星は、すべてが現在も生き残っていることになります。
小さな星が、なぜこれほどまでに信じられないほど長生きできるのでしょうか。その秘密は、星の内部で起きているガスの「動き」にあります。
赤色矮星の内部では、全体で激しい「対流」が起きています。
対流(たいりゅう):温まった中身が上に昇り、冷えたものが下に沈むことで全体が混ざる現象。
これこそが、赤色矮星が驚異的な寿命を持つためのコアとなる仕組みなのです。
赤色矮星の内部構造|完全対流の仕組み
ここで、星たちの燃料の使い方を、身近な乗り物に例えてみましょう。
太陽のような大きな星は、まるでパワーのある「大型車」です。たくさんの燃料を持っていますが、燃焼の勢いが激しく、しかも中心部にある燃料しか使うことができません。周りにある燃料は中心に届かないため、まだ使える燃料をたくさん残したまま、中心が力尽きて寿命を迎えてしまいます。
一方で、小さな赤色矮星は、究極の燃費を誇る「エコカー」です。もともと持っている燃料の量は少ないのですが、驚くほどちびちびと大切に燃やします。
さらに、先ほどお話しした「対流」の仕組みがここで大活躍します。赤色矮星は、内部のガスが全体でぐるぐるとかき混ぜられているため、星の表面にある水素も含めて、持っている燃料の「すべて」を中心部に送り込んで燃やすことができるのです。
燃料を一切無駄にせず、一滴残らず使い切る。この効率の良さがあるからこそ、赤色矮星は太陽の100倍以上もの長い時間、静かに輝き続けることができるのです。

赤色矮星の惑星で起きる「潮汐ロック」
もし、赤色矮星の周りを回る惑星に住んだら、どんな景色が見えるでしょうか?
赤色矮星は温度が低いため、暖かさを得るには星のすぐそばを回らなければなりません。あまりに近すぎるため、惑星は「潮汐ロック」という現象により、常に同じ面を星に向けることになります。
- オモテ面: 永遠に赤い太陽が浮かび続ける、高温の世界。
- ウラ面: 永遠に太陽が昇らない、極寒の氷の世界。
生命が住めるとすれば、その境界線である「夕暮れエリア」かもしれません。そこでは、永遠に続く夕焼けの中で、赤い風が吹いていることでしょう。

赤色矮星が照らす宇宙の未来
はるか遠い未来、数千億年や数兆年が経ったとき、夜空の景色は今とは全く違うものになっているはずです。太陽のような大きくまばゆい星たちは、すべて燃料を使い果たして次々と姿を消していきます。
最後に宇宙に残されるのは、今はお見せできないほど暗く小さな、この赤色矮星たちだけです。彼らは冷えゆく宇宙の終盤で、最後の灯火として世界を照らし続けることになります。
肉眼では見えないほど小さな星。しかし、彼らは宇宙で最も数が多く、最も効率的な仕組みを持ち、 宇宙の恒星時代の終盤を照らし続ける特別な存在なのです。
今夜、暗い夜空を見上げるときは、その暗闇のあちこちで、小さな赤い星たちが気の遠くなるような未来へ向かって静かに息づいている姿を、心の目でそっと探してみてください。いつもは見えなかった宇宙の「本当の主役」たちの気配が、ほんの少しだけ感じられるかもしれません。

参考文献