【かに座】英雄に踏まれたカニと、その胸に宿る「プレセペ星団」の輝き

夜空にはたくさんの星があり、それらを結んで想像する星座も多くの種類があります。そのなかでも一般に広く知られているのは、星占いの12星座ではないでしょうか。そんな12星座のうち、最も暗い星座、かに座について解説していきます。

かに座
目次

神話:あっけなく散った、忠誠の騎士

かに座のモデルとなったのは、化け蟹の「カルキノス」。 彼の最期は、神話の中でも一二を争うほど「あっけない」ものです。

物語の主役は、またしても英雄ヘラクレス(おうし座の神話や、ふたご座の弟とも縁がありますね)。 ヘラクレスが、9つの首を持つ怪物「ヒドラ」と戦っていたときのこと。 ヒドラの友人だったカルキノスは、「助太刀します!」とばかりに沼地から這い出し、ヘラクレスの足をハサミで挟みました。

しかし、歴戦の英雄ヘラクレスにとって、カニのハサミなど蚊に刺された程度。 「なんだこれ?」と、ヘラクレスは戦いのついでに足をドンと踏み下ろし……カルキノスは一瞬でぺしゃんこになってしまいました。

あまりにも可哀想な最期ですが、女神ヘラは「自分より遥かに強い相手に立ち向かった勇気」と「仲間を守ろうとした忠誠心」を称え、彼を空に上げ、星座にしました。 派手な手柄はなくても、大切な人のために体を張る。その精神は、星座となるのにふさわしい優しさと言えるでしょう。


注目のポイント①:夜空の「空白地帯」

さて、夜空でかに座を探してみましょう。 ……と言いたいところですが、都会の空ではまず見えません。 明るい星が一つもなく、一番明るい星でも「4等星」という暗さだからです。

冬から春の夜空を見上げると、 右には「ふたご座」の明るい兄弟星。 左には「しし座」の明るいレグルス。 その二つの派手な星座の間に、ぽっかりと星がない「暗い空白地帯」があります。

実は、そこがかに座の居場所です。 「何も見えない場所」に、想像力を働かせてカニの姿を描く。 古の人々にとって、かに座は「心の目」で見る星座だったのかもしれません。


注目のポイント②:死者の魂? プレセペ星団

そんな暗いカニの甲羅のあたりを、街灯のない暗い場所でじっと見つめてみてください。 ぼんやりと、白くて丸い「雲のようなもの」が見えるはずです。

これこそが、かに座最大の宝物「プレセペ星団」です。 英語では「ビーハイブ(Beehive=蜂の巣)」と呼ばれます。 望遠鏡で見ると、数十〜数百個の星がブンブンと群がる蜂のように集まっているからです。

一方、中国や日本では、このぼんやりした光を少し怖い名前で呼びました。 その名は「積尸気(せきしき)」。 積み重なった死体の放つ気、つまり「死者の魂が天に昇っていく門」だと考えたのです。

肉眼では「白いモヤ」にしか見えないのに、望遠鏡を通すと「美しい星の集まり」に変わる。すてきですね。


星の科学:世界最古の天気予報

実はこのプレセペ星団、ただの美しい星の集まりではありません。人類がまだ天気図を持たなかった時代、命を守るための「道具」でもありました。 古代ギリシャの詩人たちは、この星団を「天気予報」に使っていました。

プレセペ星団は、ぼんやりと広がった淡い光です。 そのため、空高い場所に「薄い雲」がかかり始めると、明るい星よりも先に、真っ先に見えなくなってしまいます。

「空は晴れているのに、プレセペが見えないぞ?」 それは、上空に水分が増えてきた証拠。 「もうすぐ嵐が来るぞ、船を港に戻せ!」 古代の船乗りたちは、この繊細な光の変化を読み取って、命を守っていたと言われています。


かに座は、決して主張の激しい星座ではありません。 きらびやかな一等星も持っていません。 けれど、ふたご座としし座という主役たちの間で、ぽっかりと空いた空間を埋める大切な存在です。

暗闇の中に、死者の魂とも、蜂の巣とも呼ばれる美しい星団を抱いて。 今夜は、夜空の「何もない場所」を眺めてみてください。 目には見えなくても、そこには確かに、小さな勇者がハサミを掲げているのですから。

参考文献

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

「深夜の星空喫茶」管理人。 三度の飯より星とミルクティーが好き。飯もちゃんと好き。

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次