夜空にはたくさんの星があり、それらを結んで想像する星座も多くの種類があります。そのなかでも一般に広く知られているのは、星占いの12星座ではないでしょうか。そんな12星座のうち、全天で2番目に広い面積を持つ、おとめ座について解説していきます。
神話:娘を捜す女神と、季節の物語
おとめ座のモデルには諸説あります。その中でも有名なのが、豊穣の女神デメテルと娘ペルセフォネにまつわる物語です。
デメテルには、ペルセフォネという娘がいました。 ある日、ペルセフォネは冥界の王ハデスにさらわれ、地下の世界へ連れて行かれてしまいます。 娘を失った悲しみのあまり、デメテルは大地を見守ることをやめ、大地から実りの力を奪ってしまいました。 すると地上の作物は枯れ、世界は冬のような不毛の季節に包まれてしまったのです。
困ったゼウスの仲裁により、ペルセフォネは1年のうち一定期間だけ地上に戻れることになりました。 娘が戻ってくる季節、デメテルは喜びとともに大地に再び実りを与えます。 こうして、季節が巡るようになったと伝えられています。
豊穣を司るデメテルは、いつも手に「麦の穂」を持った姿で描かれます。 夜空のおとめ座も、この麦の穂を携えた女神の姿だとされているのです。
おとめ座の見つけ方|春の大曲線の先にあるスピカ
おとめ座の女神が手にする麦の穂、それを表しているのが1等星「スピカ(Spica)」です。
スピカとは、ラテン語で文字通り「麦の穂」を意味する言葉。 日本では清らかな白い輝きから「真珠星」とも呼ばれます。
スピカを見つけるには、北斗七星の柄のカーブをそのまま南へ伸ばします。 オレンジ色のアークトゥルスを通り過ぎ、その先で青白く輝く星にたどり着けば、それがスピカです。
この星は表面温度が太陽の約2倍にもなる高温の星で、青白い光を放っています。 地球からの距離は約250光年。 スピカが東の空に昇る頃、かつての農家の人々は「種まきの季節が来た」と知ったといいます。まさに、デメテルが大地に実りを呼び戻す季節を告げる星なのです。

天文学との接続:おとめ座の彼方に広がる”銀河の楽園”
おとめ座が特別なのは、神話だけではありません。 この星座の方向には、私たちの銀河系の外側に広がる、もう一つの「豊かな世界」が隠されています。
おとめ座の方向、約6000万光年先には、1000個以上の銀河が密集する「おとめ座銀河団」が存在します。 私たちが夜空を見上げるとき、天の川(銀河系の星々が密集して見える帯)から離れた方向を向くと、自分たちの銀河の星やガスに視界を遮られにくくなり、遥か遠くの銀河まで見通すことができます。 おとめ座の方向は、まさにそうした「銀河系の外がよく見える窓」のひとつなのです。
この銀河団の中心に位置する巨大な楕円銀河が「M87」です。 M87の中心には、太陽の約65億倍という超巨大な質量を持つブラックホールが存在し、2019年には史上初めてその「影」が撮影されました。

豊穣の女神が手にした麦の穂の先には、無数の銀河という、宇宙規模の「実り」が広がっていた。 そう考えると、おとめ座の見え方が少し変わってくるかもしれません。
おとめ座を見つけるには、春の夜空で「春の大曲線」を辿るのが一番の近道です。 曲線の先に輝く青白い星、スピカ。 そのさらに奥には、1000を超える銀河が集まる銀河団が広がっています。 今夜は、麦の穂の向こうにある”もう一つの実り”を想像しながら、夜空を見上げてみてください。
※神話には地域や時代によって複数の伝承があります。本記事では、代表的な物語を紹介しています。

参考文献