
夜空にはたくさんの星があり、それらを結んで想像する星座も多くの種類があります。そのなかでも一般に広く知られているのは、星占いの12星座ではないでしょうか。そんな12星座のうち、夏を代表する星座、さそり座について解説していきます。
神話:英雄オリオン暗殺計画
この美しい星々がなぜ「猛毒のサソリ」として恐れられているのでしょうか。
物語の相手役は、冬の夜空の王者、狩人「オリオン」です。 巨人でイケメン、腕も立つオリオンは、あるとき調子に乗ってこう言いました。 「俺に倒せない獲物はいない。地上のすべての獣を狩り尽くしてやる!」
この傲慢な発言に激怒したのが、大地の女神ガイア(一説には女神ヘラとも)です。 「すべての獣を殺すだと? 自然を舐めるな」 女神は、オリオンを始末するために一匹の刺客を放ちました。 それが、このサソリです。
「なんだ、こんな虫ケラ」 オリオンは鼻で笑いましたが、サソリは小さく、素早く、そして猛毒を持っていました。 足元に忍び寄ったサソリは、オリオンのかかとを一刺し。 さすがの大英雄も、未知の猛毒には勝てず、あえなく絶命してしまいました。
力自慢の巨人が、小さなサソリの一撃に沈む。 この功績を称えられ、サソリは天に上げられ星座となったのです。
神話+天体:決して出会わない二人
この神話には、実際の星空に基づいた面白い「オチ」があります。
星座になった後も、オリオンはサソリを怖がっています。 そのため、さそり座とオリオン座は、決して同じ夜空には現れません。
東の空からさそり座が昇ってくると、西の空にいたオリオン座は「うわ、あいつが来た!」と慌てて地平線の下へ逃げていきます。 逆に、さそり座が西へ沈んでいなくなると、オリオン座は「ふぅ、やれやれ」と東から顔を出します。
- さそり座: 夏の代表
- オリオン座: 冬の代表
この二つの星座が正反対の位置(180度)にあるため、季節が完全に入れ替わるのです。 古代の人々は、この星の動きを見て「オリオンはまだサソリから逃げ続けているんだな」と物語を紡ぎました。
もし、夏の夜明け前など、条件が良い時に「逃げるオリオン、追うサソリ」のギリギリの共演が見られたら、それは奇跡的な瞬間かもしれません。
星座の形:誰が見ても「サソリ」の姿

さそり座のすごいところは、誰が見ても「あ、サソリだ」と分かるその形です。 他の星座(例えば「かに座」や「やぎ座」など)は、相当な想像力を働かせないとそうは見えませんが、さそり座は違います。
南の空低くに、大きな「S字」のカーブを描く星の並び。 右側にはハサミがあり、左に伸びた長い尻尾の先には、鋭い毒針が上を向いています。
ハワイでは、この形を英雄マウイが海から島を釣り上げた「魔法の釣り針」と見ています(ディズニー映画『モアナ』でも有名ですね)。 日本では、瀬戸内海の漁師たちが「魚釣り星(うおつりぼし)」と呼びました。 古今東西、この美しいカーブは人々の心を捉えて離さないのです。
注目の星:火星のライバル「アンタレス」
サソリの心臓部分で、ひときわ赤い光を放つ1等星があります。 これが「アンタレス(Antares)」です。
この名前の由来は、ギリシャ語の「アンチ・アーレス(Anti-Ares)」。 アーレスとは「火星」のこと。つまり「火星のライバル(対抗するもの)」という意味です。
夜空を移動する「火星」も赤く輝きます。 その火星が、不動の赤い星アンタレスに近づいたとき、まるで「どっちが赤いか勝負しようぜ」と競い合っているように見えることから、この名が付きました。
アンタレスの赤さは、「老い」の証です。 この星は「赤色超巨星」といって、星としての寿命が尽きる寸前の状態。 太陽の約700倍〜800倍というとてつもない大きさがあり、もしアンタレスを太陽の位置に置いたら、地球どころか火星や木星の軌道まで飲み込んでしまうほどの怪物です。
いつ爆発してもおかしくない、死にゆく星の最後の煌めき。 その儚さと激しさが、さそり座の「情熱」というイメージをより強くしているのかもしれません。
さそり座を見つけるのは簡単です。 夏の夜、南の空を見上げれば、赤いアンタレスを中心とした巨大なS字カーブが、圧倒的な存在感で鎮座しています。
その胸には、燃え尽きる寸前の命の炎(アンタレス)。 その尾には、英雄さえも葬り去る必殺の毒針。
静かに燃える情熱と、確実な実力。 さそり座の星々を見上げるときは、冬の空に隠れているオリオンのことも思い出してあげてください。彼が逃げ出したくなるほどの迫力が、そこにはあるのですから。
参考文献
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